今日も独りで立ち話

思ったことをそのまま書き連ねるブログ。

冬に一人で食べる牛丼の味は、いつもより塩辛い。

松子はいい女だ。

目を見張るほどの美人というわけではないが、そこそこ顔も整っているし

何より愛嬌があって笑顔がまぶしい。

 

彼女はボクがあまりお金を持っていないことに不満を言うこともなかったし

特別なことをしなくても、そばにいて笑いあえるだけで楽しいとけらけら笑っていた。

 

僕自身そんな松子にろくなデートもできなくて、後ろめたい思いはあったのだが

結局はそんな彼女の優しさに甘えてしまって、TUTAYAでDVDを1枚借りて家に向かうことが多かった。

彼女と過ごす日々はおだやかであたたかったのだけれど、人は身勝手なものでそんなささいな幸せでは飽き足らず、生意気にも刺激が欲しいなどと偉そうなことを言って、彼女と連絡を取るのをやめてしまった。

 

 

次に出会った女はスキと名乗っていた。本名は知らない。

長い栗色の髪の毛の一部を赤く染めていて、とにかく変わった女だった。

好奇心旺盛で興味があることにはすぐ首を突っ込み、行動を起こさずにはいられないといった感じで、いつもなにかをやっていた。

人が普通やらないことをあえてやるのも彼女の特徴で、

何度失敗しても、ダメなのがわかったからいい、と誇らしげだった。

スキと一緒に過ごすのは退屈しなかったが、実は彼女の眼中にボクは入っておらず

彼女の頭の中には彼女自身のやりたいことがぎっしりと詰まっていて、ボクに対する気遣いというものは微塵も存在していなかった。

こちらからどんなに何かをアピールしても、彼女の返事は彼女が興味のあることで

とても会話のキャッチボールができていたとは言えない。むしろドッヂボールですらなかった。

彼女との会話はボール遊びをする飼い主と犬のような関係だった。

振り回されてばかりの日々に疲れたボクはもう会うのを辞めようと伝えたが、

 

そう。それよりもこういうのを思いついたんだけどどうかな?

 

と、最後までボクにボールを返すことはなかった。

 

 

それからボクは吉野という女と知り合った。

美人でスタイルもよく、それでいて会話の話題も豊富、仕事も家事も完璧にこなす。

ほぼ非の打ちどころのない人だった。

 

ボクのような底辺の人間が、こんな素晴らしい人と知り合えたこと自体が奇跡なのだ。が、生意気にもボクは彼女のことがあまり好きではなかった。

彼女の言動や仕草の裏に見え隠れする自分がナンバーワンだ、と言うプライドが

何のとりえもないボクの嫉妬心を掻き立てたのか、

それとも自分の自虐心を刺激したのかはわからない。

 

ただ彼女の一挙手一投足が癪に障った。

 

彼女はボクのことを気に入っており、頻繁に連絡を取りたがった。

自分でもこんな素晴らしい相手をみすみす逃すのは惜しい気もしたが、

どうしても彼女の存在を容認できず、3回目のデートの後、連絡先をそっと消した。

 

 

 

それから少し月日が経って、偶然松子に出会った。

非常に身勝手な話だが、思い返せば自分が一緒にいて幸せを感じることができた相手は松子だった。

 

久しぶり。元気にしてた?

 

と、昔と変わらないまぶしい笑顔でボクに話しかけてくる松子。

何気ない会話を一通り繰り返したところで、松子が急に話すのをやめた。

しん、と一瞬の静寂。

 

それから松子がうつむきながら、重たそうな口を開き

 

実家に帰ってお見合いをすることになったから、もう会えない。

 

と、話すのを聞いた後は自分でも何を話したのか覚えていない。

2度と会えないという事実は、ボクには重すぎた。

じゃあ、またね。

と、いつものように別れを告げて、歩いていく松子の背中が見えなくなっても、ボクは彼女が冗談だったと言いに戻ってくるのではないか、とくだらない妄想に耽りながら風に吹かれていた。

 

 

 

会うことはもうないのだろうけど、彼女たちに幸せが訪れることそっと祈りながら

ボクはなか卯の自動扉をくぐるのだった。

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